<社説>マス倫懇全国大会 伝える使命を胸に刻む


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 福島第1原発事故をめぐる「吉田調書」問題などで報道の在り方が問われる中、マスコミ倫理懇談会全国協議会の第58回全国大会が竹島(隠岐(おき)の島町)の領有権問題を抱える島根県で開かれた。

 全体会議は「健全な民主社会を築くにはメディアへの信頼が欠かせない。国民に多様な視点を与え、自律的に真実を追究していく」との申し合わせを採択した。
 報道機関は誰のために何のために報じるのか。「知る権利」や表現の自由を損なう動きや報道への圧力に抗(あらが)い、権力を監視し、緻密な取材で真実を掘り起こして国民に届ける-。伝える使命の重みを胸に刻みたい。
 大会は「岐路に立つ社会でメディアに求められるもの」をテーマとし、取材規制や人口減少社会など7分科会で活発な討議があった。
 「東アジア領土・歴史問題」の分科会で、琉球新報の普久原均論説副委員長は山陰中央新報社(本社・松江市)との合同企画「環りの海」について報告した。尖閣諸島、竹島をめぐる漁業者ら住民の目線にこだわり、「複眼的な視点を意識し、ナショナリズムをあおらないように報じた」と述べた。
 山陰中央新報の鎌田剛記者は、韓国が実効支配する前の竹島での漁を伝え聞いた世代の高齢化を挙げて「記憶の風化」を危ぶみ、報道が果たす役割を強調した。2紙の報告から、複雑な領土問題を住民の目線からも解きほぐし、解決策を探る重要性が照らし出された。
 国民の知る権利が脅かされる恐れがある特定秘密保護法と「知る権利」の分科会で、清水勉弁護士は「通常業務ができないほど頻繁だった記者の取材が法成立後はほとんどない」と苦言を呈した。ニュースが節目を迎えた途端、検証が弱まる一過性の報道姿勢への厳しい批判として重く受け止めたい。
 「吉田調書」報道を取り消した朝日新聞への辛辣(しんらつ)な報道が続く状況をめぐり、曽我部真裕京都大教授は「過剰なバッシングは報道機関全体への国民の信頼を傷つける。公権力の介入と報道の自由の危機を招きかねない」と指摘した。全てのメディアが自戒せねばならない。
 東日本大震災から3年半、阪神大震災から20年近くが過ぎた中、震災・防災報道を続け、原子力発電所の安全性を検証する意義も見詰め直した。必死に生きる被災者に記憶の風化はない。寄り添って伝え続ける責務を肝に銘じたい。