<社説>所信表明 「言葉だけの政治」は誰か


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 「巧言令色鮮(すくな)し仁」という言葉がまず頭に浮かんだ。それが否定しようのない実感だ。

 安倍晋三首相は第187臨時国会で所信表明演説をした。さまざまな課題に言及したが、沖縄に関する部分は、現実に安倍政権が進めていることと裏腹の美辞麗句が並んでいる。誠実性を感じられぬ内容に不信の念を禁じ得ない。
 首相は「かつて裏付けのない、『言葉』だけの政治が沖縄の皆さんを翻弄(ほんろう)した」と述べた。「最低でも県外」と述べながら挫折した鳩山由紀夫元首相を批判しているのは間違いない。
 安倍首相は続けて「安倍内閣は、『言葉』ではなく、実際の『行動』で負担軽減に取り組んでいく」と述べた。「基地負担の軽減に全力で取り組む」とも述べている。
 しかし安倍政権が実際に取っている「行動」は、辺野古の新基地建設の強行である。このどこが「負担軽減」なのか。それと正反対の「負担押し付け」以外に、表現のしようがないではないか。
 安倍首相の指示により辺野古沖の掘削調査が強引になされたことを県民は知っている。暴力的な警備も周知の通りだ。世論調査で県民の8割が掘削強行に反発している。そんな中、首相は演説で「今後も沖縄の気持ちに寄り添う」と述べた。悪い冗談としか思えない。
 首相は普天間飛行場配備の空中給油機の岩国基地移駐を誇らしげに語ったが、移駐後1カ月間、ほぼ3日に1日、普天間に飛来したのが確認された。これこそ「裏付けのない、『言葉』だけの『負担軽減』」ではないか。真に沖縄の負担を軽減するなら、単に1機種の、しかも再飛来付きの「移駐」などではなく、県外・国外への海兵隊丸ごとの移駐しかあるまい。
 米国の元駐日大使の証言や米国の公文書により、1990年代以降も、沖縄の海兵隊を撤退してもよいとする米国に対し、日本政府が引き留めた実態が明らかになっている。政府が引き留めをやめれば、海兵隊移駐はすぐにでも実現できるのだ。
 演説は女性施策を強調したが、待機児童対策は予算の制約で遅々として進まない。原発再稼働の方針も示したが、汚染水対策に触れないまま安全性を強調したのも、無責任との印象を否めない。世論調査では集団的自衛権の行使容認や原発再稼働への反対が多数を占める。首相はまず、そうした民意にこそ耳を傾けるべきだ。