<社説>3閣僚靖国参拝 対話努力に水差す責任重い


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 安倍政権の3閣僚が靖国神社に参拝した。日本との間で歴史認識問題を抱える中国、韓国の両政府は早速反発しており、外交に悪影響を及ぼすのは避けられない。

 靖国神社は310万人以上の国民が犠牲になった太平洋戦争を美化する歴史観に彩られ、東条英機元首相らA級戦犯を合祀(ごうし)している。沖縄戦を体験した県民にも靖国参拝を厳しく見詰める人は多い。
 大戦を指揮した戦争指導者たちが祭られている神社を、現政権の閣僚が参拝することは国際社会にどう映るのか。戦争責任に真剣に向き合わず、日本が侵略戦争を肯定していると受け止められても仕方ない。憲法の政教分離原則にも抵触しかねない。
 閣僚として参拝は自制することが当然の務めではないか。国益を損ねていることを自覚すべきだ。
 参拝したのは、「女性活躍」を掲げる安倍晋三首相が鳴り物入りで迎えた5人の女性閣僚のうち、高市早苗総務相、山谷えり子国家公安委員長、有村治子女性活躍担当相の3氏である。
 今回の参拝は、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、途絶えていた中国との首脳会談実現に向け、政府関係者が腐心しているさなかだった。対話努力に冷や水を浴びせることを承知の上で参拝に踏み切った責任は重い。
 政権与党の公明党の山口那津男代表は「(日中首脳会談実現に向けた機運に)水を差すのは避けるべきだ」と述べ、回避を求めていた。安倍首相の歴史観にとりわけ近いとされる3閣僚はこれを無視し、首相も黙認した。政権の意を体現した行動とみていいだろう。
 安倍首相は参拝していないが、「真榊(まさかき)」と呼ばれる供物を奉納した。高市氏は「外交関係になるような性質のものではない」と強弁しているが、実際に悪影響を与えているではないか。
 中国は首相の真榊奉納などについて「靖国神社をめぐる日本国内のマイナスの動きに重大な関心と断固たる反対を表明する」と反発し、3閣僚参拝にも抗議している。韓国政府は「慨嘆を禁じ得ない」と非難した。
 ことし来日した米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官は靖国神社を避け、戦犯が祭られていない千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れた。安倍政権はその意味を考えねばならない。靖国に代わる誰もが参拝できる追悼施設の整備が急務だ。