<社説>基地立ち入り権 実効性乏しい奇妙な合意だ


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 実効性の乏しさを厚化粧を施して取り繕っているのではないか。

 そんな疑念が湧いてくる。
 日米両政府が在日米軍基地の環境調査に関する新協定を締結することで実質合意したと発表した。基地内での汚染発生後の調査や基地の返還に向けた文化財調査をめぐる基地所在自治体側の立ち入り調査の仕組みを設けるとしている。
 だが、これは立ち入り調査権の確立には程遠い。米側が無条件で応じなければ、骨抜きになりかねない。
 日本の法令の制約を受けずに基地を運用できる米軍は環境保全義務を負わない。日米地位協定で米軍に与えた排他的管理権を改め、自治体の立ち入り権を保証しない限り、環境汚染の歯止め効果は見込めず、米軍が恣意(しい)的に立ち入りの可否を判断する余地を残す。
 外務省の発表文書は、立ち入りが想定される事例として(1)発生した環境事故(漏出)後(2)土地の返還に関連する現地調査(文化財調査を含む)-を挙げている。
 日米両政府は2013年12月の共同発表で、日米の厳しい方の基準で基地内の環境保全に当たることや立ち入り手続きを整えるとうたっていた。今回の実質合意は過去の合意を新協定で条文化することを確認したにすぎず、肝心の立ち入り態様やその要件は具体化されていない。一方で、日本側が新たな財政負担を負うことは明確になり、米側は既に実を取っている。
 返還前の立ち入りに関し、自治体側が汚染の有無を確認するための土壌の掘削調査が実施できるかは交渉中で見通せないという。
 基地内で環境汚染の有無を確認する立ち入り調査が実施できる担保はないのである。県内自治体による基地内立ち入り調査申請はほどんど、理不尽な判断を繰り返す米軍の厚い壁にはね返されてきた。従来の構図と何が変わるのか。
 実質合意という奇妙な発表を急いだ動機は不純だ。11月16日の県知事選前に、米軍普天間飛行場の辺野古移設を推進している仲井真弘多知事を支援する思惑があるとみられる。
 返還が決まった基地を抱える自治体は土壌や地下水の汚染が跡利用の遅れにつながることに懸念を深め、事前の立ち入り調査と浄化措置の確立を訴えている。沖縄側が求める立ち入り権実現を宣言できないのに、選挙対策と疑われるような実質合意を前倒しすることは、屋上屋を架すようなものだ。