<社説>シュワブ文化財 乱暴な調査は許されない


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 埋蔵文化財は私たちの来し方を探る最大の手掛かりだ。歴史を正確に把握することは文化行政の大本である。その貴重な文化財を、何らかの工事に伴って破壊するのは非文化的行為で、許されない。行政の工事であればなおさらだ。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関連して、キャンプ・シュワブ内移設工事予定地の埋蔵文化財5件の取り扱いについて、県教育庁は沖縄防衛局に対し、名護市教育委員会と再協議するよう勧告した。防衛局は再協議し、市教委の判断を尊重すべきだ。ゆめゆめ乱暴な調査で遺跡を破壊したり安易に埋め戻したりしてはならない。
 今回対象となっている遺跡は(1)思原(うむいばる)遺跡(2)思原石器出土地(3)思原長佐久遺物散布地(4)ヤニバマ遺物散布地(5)美謝川集落関連遺跡群-の五つ。防衛局は2015年4月に移設工事を始めるため、発掘などの記録保存作業の全行程を本年度内に終えるよう市に求めた。
 しかし、期限を切って調査を終えよというのはいかにも乱暴だ。そもそも遺跡は、安易な破壊を避ける観点から慎重な作業が求められるのが普通だ。はけを使い、1日1センチしか進まない場合もあれば、機材を使って何メートルも掘る場合もある。調査にどの程度の期間を要するか、現段階で言えるはずがない。
 まして今回の遺跡は基地内にあり、自治体が自由に立ち入れない場所にある。「掘ってみなければ全容は分からない」(市教委)状態だ。5カ所のうち、思原遺跡以外は記録保存の初期段階となる「分布・確認調査」しか行われていないのだから、なおさらだ。範囲が未確定な遺跡もある。市教委は「遺跡の詳細が把握されていない以上、現段階では保存が望ましい」と主張する。誠にもっともである。
 初めに工事開始時期ありきで、工事の都合に合わせて遺跡の規模や価値を制限するかのような防衛局の姿勢は本末転倒だ。
 仮に市町村の工事で予定地内で遺跡が見つかったとする。工事を早く進めたいからといって遺跡発掘を早々に手じまいにすれば、文化財保護法違反に問われる可能性が高い。市町村に許されないことが国なら許される、などということはあり得ない。
 米軍基地内は国内法が及ばぬことを理由に文化財保護の義務を怠るなら誤りだ。むしろ基地内にも法の適用を求めるのが筋であろう。