<社説>TPP閣僚会合 大幅譲歩なら撤退せよ


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 オーストラリアのシドニーで開かれていた環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合が決着を持ち越して閉幕した。

 TPP交渉は年内決着への道筋を明確にすることができず、先行きは一層不透明となった。
 米国は11月の中間選挙を前に支持者に強い交渉姿勢を示そうとしているようだ。だが、日本は年内決着を急ぐ必要はない。米国に大幅譲歩すれば、将来に禍根を残す。
 自民党は2012年12月の総選挙で、TPP交渉をめぐり「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」と公約したはずだ。公約を捨てて国益を損なうような大幅譲歩をするくらいなら、日本は撤退すべきだ。
 シドニーで開かれたTPP閣僚会合は日米協議の遅れにより、関税撤廃とルール作りの分野でめぼしい成果がなかった。
 これまで安倍政権はコメや麦、サトウキビ、牛肉、豚肉を「聖域」と位置付け、関税維持は譲れないと国民に説明してきた。国会も「聖域が守られない場合は交渉からの脱退を辞さない」と決議している。
 今回の日米協議は、日本が守りたい牛・豚肉関税を含む農産品と、米国の自動車部品関税などで進展があったという。日本が何らかの譲歩をしたということだろう。米国は日本にコメの輸入量増加や、一部乳製品の関税撤廃を新たに求めてきている。「日本はまだたたける」と米側は踏んでいるようだ。
 しかし、日本が「聖域」と位置付ける分野の関税撤廃を回避する代わりに、関税の大幅な引き下げや輸入の拡大を受け入れることは、公約と国会決議に反することになる。
 県内の畜産農家は優良な牛、豚を育て、一部はブランド化に成功した。牛・豚肉関税で米国に大幅に譲歩すれば、県内への打撃は計り知れない。
 一方、ルール作り分野でも、企業が投資先の政府を訴えることができる「投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項」は「国の主権を損なう」との反対論が根強い。
 安倍晋三首相は施政方針演説でTPPは「国家百年の計」と強調した。それなら国民に説明することなく、密室交渉で決着を目指すやり方はおかしい。国会で徹底的に議論すべきだ。