<社説>拉致再調査 今度こそ全面解決に尽力を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 拉致被害者らの再調査に関する日朝協議で、北朝鮮側は「過去2回の調査結果にこだわらず、新しい角度から調査を深めていく」との方針を伝えた。その言葉通り、北朝鮮は今度こそ拉致問題の全面解決に全力を尽くすべきだ。

 菅義偉官房長官によると、北朝鮮側は「拉致被害者12人に関し、入国の有無や経緯、生活環境などをあらためて調査している」と説明したという。「8人死亡、4人未入国」とする過去の調査結果に固執するこれまでの姿勢を改めたようにも見える。しかし、今協議の成果として評価するのは早計だ。
 日本人の包括的調査を実施するために北朝鮮が設置した特別調査委員会は当初、「夏の終わりから秋の初め」に初回報告を行うとしていたが、実現しなかった。今回の協議でも「具体的な安否情報はなかった」(菅官房長官)という。拉致被害者家族を失望させる残念な結果であり、成果は乏しかった。
 北朝鮮から示された「新しい角度」からの調査を単なる口約束に終わらせてはならない。2004年の小泉純一郎首相との会談で金正日総書記は「白紙に戻した形での再調査」を約束した。ところが、横田めぐみさんのものとする「遺骨」が別人と判明するなど、約束は履行されなかった。
 問題の先送りとごまかしはこれ以上許されない。拉致という国家犯罪行為と真正面から向き合い、全面解決へ道筋を付ける責任を北朝鮮は果たすべきだ。拉致問題の全容解明に向けた徹底調査が実行されるよう、間断ない協議への努力を日本政府にも求めたい。
 拉致被害者だけではない。拉致の疑いが否定できない883人の特定失踪者、戦後北朝鮮に渡った日本人妻など全ての日本人に関する徹底調査がなされるべきだ。特定失踪者の中には32人の県出身者がいる。拉致被害者らの帰国を速やかに実現し、不幸な2国間関係に終止符を打たなければならない。
 拉致被害者や特定失踪者らの生存が確認された場合、日本側が帰国の意思を確認する枠組みが必要となる。抑圧状態に置かれた被害者らが、北朝鮮の干渉を受けずに帰国の意思を示す場を確保しなければならない。
 「今回が最初で最後のチャンス」と話す被害者家族の苦悩と焦燥から目を背けてはならない。年内にも行われる再調査の初回報告で北朝鮮は最大限の誠意を示すべきだ。