<社説>年金積立金 「山椒魚」にならないか


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 老後の生活を支える年金は国民にとって「虎の子」だ。掛け替えのない資産であり、成長戦略として「賭け」に投じるのは危険だ。

 厚生年金と国民年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は年金積立金の投資先を見直すと発表した。国債を大幅に減らして国内株式を大幅に増やすという。
 株にリスクはつきもので、運用に失敗すれば「虎の子」の年金が失われる。その場合、誰がどう責任を取るのか。GPIFのトップが引責辞任したり減給になったりしても、消えた年金が戻ってくるわけではない。つまり責任は取りようがないのだ。
 そもそも年金積立金は政府のものでなく国民のものだ。リスクをどの程度引き受けるのかは所有者たる国民が決めるのが筋だ。厚労省とGPIFは方針を撤回し、国会の内外で広く議論すべきだ。
 発端は安倍晋三首相のダボス会議での宣言だった。「GPIFの資産構成割合を見直し、成長への投資に貢献する」と述べたのだ。年金積立金の投資先変更を成長戦略にすると率直に表明した形だ。
 「年金積立金の政治利用だ」との批判が上がると、今度は「年金財政の安定が目的だ」と述べた。
 アベノミクスで作為的なインフレが生じているが、インフレだと長期金利が上昇し国債価格は下落するから、GPIFが持つ国債も目減りする。目減りは困るから国債を放出し、日銀が引き受ける。GPIFはその分、株を買う。「安定」とはそういう意味だ。
 すると、アベノミクスの失敗を年金積立金で取り繕うことになる。それならまさに政治利用だ。
 GPIFの運用額は127兆円だが、公務員の共済年金や独立行政法人の資産も連動する。すると200兆円だ。見直しにより株式の比率は最小6%から最大で34%となる。最大で68兆円もの巨額を市場に投入できるから、政府のさじ加減でいくらでも株価上昇を演出できる。政権の人気取りに利用されかねない。
 GPIFは日本の株式市場に比して巨大過ぎる。買う時はいいが、売るときには巨大過ぎて暴落の危険を伴う。すると売るに売れない状態になる。井伏鱒二の小説の山椒魚(さんしょううお)は川の中の穴にいたが、大きくなって穴の出口に頭がつかえ、抜け出せなくなる。GPIFも株式市場に深入りすると、抜け出せない「山椒魚」にならないか。