<社説>認知症国家戦略 当事者意向踏まえ策定を


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 安倍晋三首相は新たな認知症対策の国家戦略を策定する方針を表明した。年末の政府予算案に反映するため年内に策定し、来年度から実施する考えだ。認知症を発症した人の尊厳を守り、家族と共に希望が持てる社会を構築する戦略とすべきだ。そのためにも当事者の意向を踏まえた策定を求めたい。

 厚生労働省の推計によると、2012年時点の認知症とその予備軍は計862万人に上る。65歳以上の高齢者の約4人に1人の割合だ。25年には団塊の世代が全員75歳以上となり、認知症の増加が予想される。
 認知症で徘徊(はいかい)し、行方不明となる人が年間1万人を超え、深刻な社会問題となっている。高齢化の進展に伴い、認知症への対応は一層困難となるだろう。省庁の壁を越えた国家戦略は待ったなしである。しかし、現時点では厚生労働省を軸とした施策にとどまっているのが実情だ。
 昨年4月に始まった「認知症施策推進5カ年計画」(オレンジプラン)は病院や介護施設が基本だった従来の施策から在宅ケア中心への転換を目指している。認知症の増加を考えれば方向性は理にかなっているが、所管する厚労省だけでの施策展開では不十分だ。
 認知症に悩む人が住み慣れた地域で家族と共に安心して暮らせる社会システムの構築が求められている。各省庁で何ができるのか知恵を絞ってほしい。都道府県や市町村はもちろん地域社会を巻き込んだ施策も必要だ。発症者や家族を地域社会の中で孤立させてはならない。市民による「認知症サポーター」の育成強化を新たな戦略で打ち出すのは当然であろう。
 国家戦略の策定で不可欠なのが「当事者の視点」だ。認知症の当事者や家族の要望を表明できる場を設けるべきである。予算案に間に合わせるための拙速な作業で当事者をらち外に置いてはならない。ことし10月には国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」が発足した。その意味を重視してほしい。
 幸い県内でも「認知症サポーター」の育成が進んでいる。介護に悩む家族が気軽に利用できるカフェが与那原町で始まった。支え合いの精神「ゆいまーる」が生きる認知症支援の取り組みを歓迎したい。
 人は誰しも老いる。認知症は地域に生きる人全ての問題である。認知症当事者や家族を支える共生社会に向け、議論を重ねたい。