<社説>日中首脳会談 対話と交流で関係改善を


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 安倍晋三首相と中国の習近平国家主席の就任後初めての首脳会談が実現した。尖閣諸島の領有権や歴史認識の問題で著しく悪化した日中関係の改善に向け、戦略的互恵関係を発展させることで合意した。冷え込んだ両国の関係改善に向けて一歩を踏み出した今回の会談の成果を歓迎したい。

 沖縄県にとって尖閣諸島をめぐる日中関係の対立悪化は憂慮すべき事態だ。2012年9月に当時の野田政権が尖閣国有化に踏みきり、反発した中国が首脳会談を拒む一方、公船による尖閣周辺の領海侵入を常態化させている。自衛隊と中国軍が互いに監視活動を続けており、5月には空域で中国戦闘機が自衛隊機に異常接近するなどの状態が続いた。無用の摩擦による軍事衝突は避けなければならない。
 今回の会談の4項目合意の中には「東シナ海での危機管理対応」が盛り込まれた。尖閣をめぐる対立で不測の事態回避に向けた「海上連絡メカニズム」の構築と早期の運用開始に向け、実務者協議を進める方針も確認した。
 武力ではなく対話と協議を通じ、平和的な解決を目指す方針で一致したことは高く評価したい。合意を受けて政府は即座に中国側に協議開催を打診した。危険回避のための両国による連絡体制構築を進めてほしい。
 一方で今回の首脳会談はあくまでも日中関係改善の入り口にすぎない。人民日報は論評で会談を日中両国の間で閉ざされていた「接触の大門を少しだけ開いた」との見方を示した。安倍首相を出迎えた習氏が握手を交わした時に見せた硬い表情に、両国の友好関係構築の難しさが表れていた。
 会談では習氏が「歴史の直視」を求め、安倍首相は「歴代内閣の歴史認識を引き継いでいる」との考えを示した。過去の植民地支配と侵略を認めた1995年の村山富市首相談話の継承を意味する。
 安倍首相が再び靖国神社を参拝したり、中国の公船がこれまで同様に尖閣の領海侵入を続けたりする事態が起これば、合意内容は空文と化すだろう。両首脳とも国民のナショナリズムをあおって自らの権力固めを狙う愚行は避けるべきだ。
 今後は両国のさまざまなチャンネルを通した対話と交流を重ねる必要がある。会談を機に関係改善へと踏み出した方向性を関係悪化へと逆戻りさせてはならない。