<社説>年内解散論 大義はどこにあるのか


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 安倍晋三首相が年内の衆院解散・総選挙を検討している。永田町は選挙準備に走りだしたが、降って湧いた解散論に多くの国民は強い違和感を覚えるのではないか。

 突然の解散風は、来年10月に予定される消費税率引き上げの首相判断をめぐって吹き始めた。
 消費税10%への再増税をめぐり、判断材料となる7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が17日発表されるが、予測を下回る「悪い」(自民党幹部)数値が出るとの見方がある。
 このため、首相が再増税の先送りを決断し、その是非を問う解散、総選挙を表明する-という見方が浮上した。再増税の是非について国民の信を問うというと聞こえはいいが、この理屈はおかしい。
 そもそも民主、自民、公明の3党合意に基づき成立した消費税増税法は付則で「経済状況の好転」を増税の条件としている。首相も経済指標を見て判断すると繰り返してきた。そうであれば、付則の通りに見定めればいいだけの話だ。
 景気はことし4月の消費税8%への増税の駆け込み需要の反動減が長引き、減速している。再増税の環境にないとすれば、首相が今やるべきことは、自らの経済政策「アベノミクス」の頓挫を謙虚に受け止め、必要な対策に早急に着手することではないのか。
 年末には来年度予算編成なども控える。国民生活にも影響しかねない時期の解散に大義があるのか。甚だ疑問で、与党や財界からも異論があるのは当然だろう。
 解散論には、再増税への抵抗感が根強い国民の支持を取り付けつつ、選挙準備が遅れている野党の虚を突こうという思惑があろう。閣僚の「政治とカネ」問題への追及をかわそうとする狙いも透ける。野党は「党利党略解散」と批判しているが、無理からぬところだ。
 解散について外遊中の首相は「何ら決めていない。国内では臆測に基づく報道があると聞いている」と述べたが、与党幹部に年内解散の検討を伝えていたことも明らかになった。
 首相周辺には、来年以降は川内原発の再稼働や集団的自衛権の行使容認に関する安全保障関連法制など不人気な政策の審議が続くことから、年内解散を後押しする意見もあるという。もっての外だ。
 原発再稼働や集団的自衛権の行使容認など、首相は国民の過半数が反対している問題こそ正面に掲げて国民の審判を仰ぐべきである。