<社説>与那国住民投票 「再議」ではなく「実施」を


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 与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備について、与那国町議会は野党3議員の提案した賛否を問う住民投票条例案を採決し、3対2の賛成多数で可決した。外間守吉町長は条例案を再議に付す意向を示しており、再議となれば議長を含めた議員の3分の2以上の賛成が必要となり、否決される公算が大きい。住民投票を実施して自衛隊の配備の賛否を問うべきだ。再議で否決に持ちこむべきではない。

 与那国島への自衛隊配備についての住民の意見は二分している。配備の是非を争点に昨年8月に実施された町長選は外間氏が553票を獲得して当選した。しかし配備反対候補との票差はわずか47票だった。2011年に集まった誘致反対の署名は556人に上り、08年に集まった誘致賛成の署名514人を上回っている。配備をめぐる住民意思が明確になっているとは言い難い。
 12年に取り組まれた住民投票を求める署名も544人に達し、条例制定を直接請求したが、賛成少数で否決されている。今回、議会で可決されたのだから、町は住民投票を実施して町民の意向を確認するのが筋だ。
 一方で沿岸監視部隊の駐屯地建設工事はことし4月に起工式があり、現在は造成工事などが進められている。起工式に出席した小野寺五典防衛相(当時)は配備撤回を求める声が地元で根強いことについて「町長が『反対する住民はほとんどいない』と言っていた」と述べている。防衛省は自分たちに都合の良い意見だけに耳を傾けて、配備を着々と進めようというのか。
 そもそも与那国島に自衛隊施設が必要なのか。自衛隊の組織内からも異論が出ているではないか。防衛省や陸自側は尖閣諸島など領土防衛のための抑止力などの意義を強調する。しかし海上自衛隊関係者は「陸自の組織防衛が最大の理由だろう。尖閣への対処は空自と海自の領域だ」と疑問を投げ掛けている。
 陸自の組織存続と防衛省の南西諸島への自衛隊配備の実績づくりで配備が進められるなら問題だ。
 今回提出された条例案には投票結果について、町長に「国や関係機関と協議し、町民の意思が正しく反映されるよう努めなければならない」と求めている。町長は再議で廃案に追い込むのではなく、投票を実施して町民の意向を直接聞くべきだ。