<社説>碇石 法治国家なら徹底調査を


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 わずか60~70センチの石が大きな価値を秘めていそうだ。名護市辺野古の新基地建設予定地で見つかった石が、琉球王朝時代の碇石(いかりいし)である可能性が高まった。

 碇石なら文化財だ。文化財保護法は、遺跡や文化財が見つかった場所付近の工事に文化財の有無を確認する試掘調査と文化財を記録する本調査を義務付けている。
 菅義偉官房長官は常々「法治国家として(新基地建設を)粛々と進める」と述べている。法治国家ならよもや文化財保護法を破ることはあるまい。当然ながら徹底調査すべきである。
 碇石は中世に木製のいかりを沈めるため使った重りだ。鉄錨以前に日本や中国、朝鮮を往来する貿易船で使ったとされ、アジアの交流史を知る手掛かりである。県内での発見はまれだ。久米島町は町指定有形文化財に指定しているほどで、その貴重さが分かる。
 今回の石は2月下旬、名護市教委が新基地予定地の米軍キャンプ・シュワブ内で試掘調査前の踏査をした際、海岸付近で見つけた。市教委は専門家に石の鑑定を非公式に依頼したが、その専門家が「碇石の可能性が高い」と述べている。
 シュワブ内には大又遺跡、思原遺跡など五つの遺跡・文化財があることが既に分かっている。市教委はその試掘調査を沖縄防衛局に求めていた。防衛局は先に新基地建設工事を進め、文化財が見つかったら市と協議すると主張していた。文化財を壊しても構わないと言わんばかりの主張はさすがに撤回されたが、今も試掘調査を短期で済ませるよう求めている。文化財の価値を知らない、文明国にあるまじき非常識な主張と言うほかない。
 防衛局は新基地建設の作業ヤードに、当初は辺野古漁港を使おうとしていた。だが漁港の管理権は市で、市との協議の長期化を避けるために別の場所にヤードを設けることにした。だがその場所が試掘調査予定地なのだ。
 碇石が本物と判断されたら、市側は発見場所付近として海域の調査も求める方針だ。防衛局も、文明国なら認めるほかあるまい。市教委は遺漏なきよう調査を尽くしてほしい。
 試掘調査を県や市が求めた場合、米海兵隊の許可が必要となる。折しも米軍普天間飛行場のリー司令官が文化財について「宜野湾市やコミュニティーと協力して保存に努めている」と強調したばかりだ。米軍も言行一致が問われよう。