<社説>島尻氏発言 検閲にらむ危うい発想だ


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 政権や政治家が権力を盾に報道内容に介入することを許せば、歯止めが利かなくなる。表現・報道の自由を揺るがしかねない懸念材料は徹底して摘み取らねばならない。報道機関が権力の行き過ぎを監視し、それに歯止めをかける使命を果たすことは、民主主義社会の基盤を強くするからである。

 民間放送局の番組やCMなどを蓄積する「放送アーカイブ」構想をめぐり、県選出の島尻安伊子参院議員が事後の報道監視に用いるべきだとの見解を示していた。
 ことし3月の自民党内の会合で、島尻氏は「先日の選挙では私の地元メディアは偏っていた。あの時、どうだったかを調査するのは大事だ」と述べた。昨年11月の県知事選や翌12月の衆院選沖縄選挙区で自民党が推した候補者が全敗を喫した。その際の報道内容を問題視していると解釈するのが自然だ。
 これは、自民党に不利な放送内容があるという前提に立ち、事後検閲の制度化を求めるものだ。
 憲法21条は検閲を禁じている。
 文化的資源として放送番組を記録、蓄積するという制度の趣旨を逸脱し、特定の政党に不利な内容がないかを追及することは極めて危険な発想であり、憲法に反する。
 県内の放送局も見解を示すべき事案だろう。報道の自由を押しつぶしかねない問題と認識し、島尻氏は考えを改めるべきだ。
 制度に詳しい山田健太専修大教授は島尻氏発言の延長線上に、個別番組への抗議や総務省への行政指導を求める動きが出かねないと指摘している。
 与野党が議員立法を目指している「放送アーカイブ」は「文化的資産として放送番組を蓄積し利用すること」と目的をうたう。国立国会図書館が番組などを蓄積し、研究者などの研究に資することが軸となる計画のはずである。
 ところが、現在の計画では国会議員のために国会図書館が番組をチェックし、議員に内容を報告することが可能になり得るという。
 安倍政権と自民党は許認可権を盾に放送局への圧力を強めている。4月には番組内容に問題があったとして、NHKとテレビ朝日の幹部を呼び付けて事情聴取した。昨年の衆院選前には公平性の確保を求める文書を在京テレビ各局に送り、街頭声取りの在り方にまで注文した。
 島尻氏発言は政権の体質と符号するだけに、危うさが増幅する。