<社説>防衛白書 国民の声に耳を傾けよ


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 安全保障環境の厳しさを例年以上に強調しているが、今こそ外交努力を重ねる姿勢を示すべきだ。

 2015年版防衛白書が閣議で了承された。尖閣諸島周辺への海洋進出や南シナ海での岩礁埋め立てを進める中国に対し「一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢」と非難し、東シナ海でのガス田開発の中止なども求めた。
 白書は中国の軍事的台頭に対する懸念を従来より強めた一方、尖閣問題を念頭に与那国への沿岸監視部隊配備や水陸機動団の新編、那覇基地への第9航空団の新編など、離島防衛強化の方針を示したのが特徴だ。
 だが脅威をあおり配備の正当性を訴えるのは、むしろ相手を刺激し軍拡の口実さえ与えかねない。中国の国防費増大を指摘した白書に対し中国外務省は「中国の軍事力発展に日本がとやかく言う権利はない」と反発している。
 米軍基地が集中する現状で今のまま自衛隊が増強されれば、沖縄は東アジアの緊張を高めるような危険な場になりかねない。そのような事態は断じて認められない。
 白書は北朝鮮ミサイルのほか、過激派組織「イスラム国」に初めて触れ、テロに警告を発した。安保環境の厳しさを強調しているのには、国会で審議中の安保法案への支持を訴えたい思惑もあろう。
 だが共同通信社が17、18日に実施した全国世論調査では法案への反対は62%に上り、強行採決を73%が批判した。環境の厳しさを訴えたところで、法案への支持が広がる状況とは到底思えない。
 白書は中国機などへの航空自衛隊の緊急発進の多さも強調したが、仮に朝鮮半島や尖閣の有事を想定したとしても、個別的自衛権で対処すべき事案だ。日米が4月に合意した防衛協力指針によれば、尖閣など島しょ防衛への共同対処は「作戦を主体的に実施する」のは自衛隊であり、米軍は「自衛隊を支援する作戦を実施する」にすぎないことを理解する必要がある。
 防衛政策に関し中谷元・防衛相は「国民の理解と支援が不可欠」と表明したが、国民の8割以上が説明不足と批判する法案をごり押しする様はその説明から懸け離れている。
 選挙で反対の民意が再三示されている米軍普天間飛行場の移設問題も同様だ。危機をあおり民意に反した政策を強行する姿勢を改め、周辺国との信頼醸成に向け、国民の声に謙虚に耳を傾けるべきだ。