<南風>秋の使者サシバ


社会
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 秋空の下、運動会の練習をしていると、男子生徒が「タカ、タカだ!」と空を指した。練習そっちのけで、みんな空を見上げる。タカが集団で旋回している。ワーッという歓声がおきた。今年もタカの季節がやってきた。もう練習どころではなく(特に男子)、心はウキウキワクワク。

 これは、私が子どもの頃(1960年代)の光景である。私たちはサシバではなく、タカと呼んでいた。サシバは本州等で繁殖期を過ごし、秋になると越冬のため東南アジアに渡る。宮古はその中継地点だ。寒露の頃になると島のあちこちに飛来した。当時は貴重なたんぱく源として、また子どもたちのペットとして捕獲が行われ、わが家にもたくさんのサシバが頭を下にしてぶら下げられていた。男子は、捕獲のことを考えると運動会どころではなかったのだ。

 72年の本土復帰に伴い、沖縄県でも鳥獣保護法が適用になり国際保護鳥のサシバは捕獲禁止となった。しかし、長年の習慣を止めることは難しく、県や宮古野鳥の会などによる根気強い啓蒙(けいもう)活動が続けられ、90年代に終息となった。宮古野鳥の会は、73年から飛来数のカウントを始め、現在も続けている。

 古くからサシバと関わりがあった宮古には、サシバの歌や民話、伝説、ことわざなどが残っている。それだけ身近な存在であり、暮らしを潤してくれるものでもあった。私たちにたくさんの恵みをくれたサシバ。飛来数は減少しているが、今もその姿を見ることはうれしく、よく来たねーと手を振りたくなる。

 サシバは、その渡りで3千キロも飛ぶという。長旅の疲れをこれからも宮古で癒やし、旅立ってほしいと願う。そのためには自然豊かな宮古でなくては。

 今年の寒露は10月8日。まもなく秋の使者サシバがやって来る。
(松谷初美、宮古島市文化協会事務局長)