<南風>魔法の質問


社会
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 ある日、初対面の方に「どんな幼少期を経て今の職業につくきっかけになったんですか?」という質問をしたら全く想像していなかった驚きの答えが返ってきて、それからすっかりこの魔法のような質問の虜(とりこ)になりました。幼少期から今の仕事に就くまでのストーリーには、人生観、価値観が詰まっていて、この人が大事にしているコトに触れ、経験した葛藤や立ちはだかった逆境に共感することができ、心の距離がグッと近くなる気がしています。

 普段は相手との協調性を持ち、相手を尊重して会話を進めることが多いビジネスパーソンは、質問にうれしそうに答えてくれる場合が多く、また、話しているうちに別のエピソードを思い出し、話し足りなくなってしまう方がほとんどで、飲みの席では大いに盛りあがります。

 誰もが「自分を深く知ってほしい」という願望があるそうです。しかし、ビジネスパーソンは名刺を交換し、仕事に関わる話や世間話しかしないのが一般的です。私も初対面の相手に仕事以外の話で「休日はどう過ごしていますか?」程度の質問しか思いつかず、私が同じ質問をされたら「仕事」「家でゴロゴロ」という答えになってしまうので、これでは全くお互いの理解も深まりません。

 面白いのは、この魔法の質問は、聞かれた方の答えが話し足りなくなって、私に質問が返ってきた試しがありません。「もっと知ってほしい」という願望が解き放たれて、ドーパミンが多量に分泌されているのではないでしょうか。

 もし自分のストーリーが映画になるとしたら、今までの人生のどの部分を切り取って物語にするだろうか、どんなエンディングにするか、今度はこの質問をしたらドラマティックに語り合えるかもしれないと、次の語らいの機会を楽しみにしている私です。
(呉屋由希乃、社会起業家)