<南風>ノーベル賞と沖縄の未来


社会
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 「リチウムイオン電池がなければ、ガソリン車に対抗できる電気自動車を作ることはできないと思う」。テスラCEOのイーロン・マスク氏のこの発言は、今年のノーベル化学賞受賞者である吉野彰博士、ジョン・グッドイナフ教授、スタンリー・ウィッティンガム教授が30年前に成し遂げた発見の価値を改めて実感させるものです。

 充電ができて軽量で、しかも強力なリチウムイオン電池は、いまでは携帯電話からノートパソコン、電気自動車など、さまざまな製品に使用されています。太陽光や風力などから生まれるエネルギーを大量に蓄えることができるため、化石燃料を使わない社会の実現に不可欠となるでしょう。

 この偉大な発見に、少なくとも三つのメッセージがあると思います。第一に、常識を覆すような画期的な技術をひらめいて形にするには、「好奇心主導型」の研究が必要であること。第二に、基礎研究の価値は、何年も後になって明らかになることがあること。第三に、科学的発見が、私たちの生活を変える力を持っていること。沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、まさにこうした理由で自由な基礎研究に重点を置いているのです。

 ガソリン車のない沖縄を想像するのは難しいことではありません。数年のうちには、多くの車が1回の充電で300キロメートルを走行できるようになるでしょう。沖縄にとってきれいな空気はありがたいものです。そして、ガソリンから電気への転換は、自動車産業に革命をもたらし、それは製造業の雇用市場にも変化を迫るでしょう。電気自動車の製造に必要なスキルはガソリン車とは異なるからです。 将来の世代が必要とする新たな仕事や社会の繁栄につながる技術をもたらすのは、まさに科学の力だと信じています。

(ピーター・グルース、沖縄科学技術大学院大学学長)