<南風>艱難汝を玉にす


社会
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 11月も半ばになると、受験生の顔に緊張と焦りの色が浮かぶ。迫る受験、伸び悩む成績。更には無節操に変わる受験システムが追い打ちをかける。辛い。苦しい。不安とプレッシャーが彼らを苛(さいな)む。

 私は国語の教師。試験を代わることはできずとも、言葉の力で彼らに勇気を与えたい。だから今日はこの一言を贈ろうと思う。

「艱難(かんなん)汝を玉にす」

 人生に立ちふさがる困難や、目標達成に至るまでの言い尽くせない苦労は、むしろあなたを宝石のように磨き上げる、という意味だ。

 できるなら苦しいこと、つらいことは遠ざけたい。なるべくラクで楽しい道を歩きたい。そう願うのは人の性(さが)。しかし私たちをより成長させるのは、時に痛みであり、苦しみであるのもまた事実。数えきれない涙と汗を流したアスリート。気の遠くなる修行の果てにわざを身につける職人。いずれも困難や苦労を重ねた末の栄冠であり、勲章だ。受験もまたその一つ。はるか遠くにそびえ立つ頂に向かって、誘惑を絶ち、困難に挑むその日々が君たちを気高い瑠璃(るり)に変える。小さな己を自覚し、そこから踏み出す歩みの数が君たちを輝く翡翠(ひすい)へと仕立てるだろう。

 そして今、艱難に立ち向かうのは受験生だけではない。沖縄を愛する人々も同じだ。この原稿を書く5日前に首里城が焼失し、多くの人々が耐え難き痛みを抱えている。しかし、かつての艱難を乗り越えた沖縄の先人たちが、より大きく、より逞(たくま)しく、そしてより優しくなったことを、私たちは既に歴史で学んでいるはずだ。

 より高く跳ぶために、人は膝を屈し、体を低く深く屈めなくてはならない。

 受験生諸君!そして沖縄を愛する皆さん!共に艱難を乗り越えましょう!今の痛みや苦しみが、いつか私たちを輝く宝玉(ほうぎょく)へと作り変えることを信じて。
(砂川亨、昭和薬科大学附属中・高校教諭)