<南風>サンクチュアリ


社会
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 1998年初めてカンボジアの土を踏んだ。日本アセアン協会会長として、カンボジアの復興に尽力した父への勲章授与式に出席する兄に同行させていただいた。

 インドシナ半島南部、メコンデルタの肥沃な土地と海外貿易で栄えた「扶南(ふなん)」。その後盛衰を繰り返し、フランスの植民地から独立したものの長年の内戦で国土は荒廃。特にポル・ポト政権の時には自国民300万人が虐殺され、教育・経済社会・文化など一切のものが破壊されてしまう。93年に統一政府としてシアヌーク国王の下、カンボジア王国が誕生する。栄華の象徴アンコール・ワットにも市井の民の生活にも内戦の傷跡が色濃く残っていた。

 カンボジアについて強く関心を持つようになったのは漫画『サンクチュアリ』を読んでからだ。同国の動乱に巻き込まれ、孤児となり奇跡的に命ながらえて帰国した日本人の少年二人。繁栄を謳歌する日本。しかし、「日本人の眼が死んでいる」と感じた二人は、日本を変革しようと一人はヤクザの裏社会、一人は政治の表舞台に進む。彼らは抵抗勢力と命を懸けて戦っていく。壮大な夢を掲げ、それに殉ずる覚悟で目標に向かって忍耐強く行動し続ける男たちの姿は、胸を熱くする。

 新規事業の壁にぶつかり、ともすればくじけそうになる心を奮い立たせてくれた。どう生きるべきなのか?生きがいを持って生きるとは?何のために生まれてきたのか?改めて生きる意味を考える作品だった。

 観光客にお土産を勧める少年たちの笑顔と『サンクチュアリ』の二人が重なる。戦争ですべてが灰燼(かいじん)に帰した沖縄で、さまざまな困難に直面しながらもたくましく生き抜いてきたウチナーンチュに重なった。大国のはざまで生き残るためにあらゆる術を尽くす『陸』のカンボジアと『海』の沖縄が重なった。
(稲嶺有晃、サン・エージェンシー取締役会長)