<南風>作曲家の「声」


社会
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 足元に街を映し出すように濡れた石畳。しとしと降り続く雨でイタリアはぐんと寒くなりました。天気の悪い日は、いつもよりそっと音を出し、静かな心と耳で寄り添いたくなります。

 不思議なことに芸術家は寒い地域から多く生まれてきました。クラシック音楽も絵画も、歴史に名を残した巨匠はヨーロッパから多く生まれています。ヨーロッパでも南に位置するイタリアのオペラとロシアや北欧の作品では随分と感じが違うのですが、私は常に、フランス音楽とロシア音楽に興味があります。

 今日はフィギュアの浅田真央選手がソチオリンピックで使用したラフマニノフを代表とするロシア作品について少しお話ししたいと思います。

 クラシックと言うと、漠然と優美で清らかな旋律を皆さん思い浮かべるかも知れません。もちろんクラシックの美点で大きな特徴ですが、ロシア作品はそれに加えて、寒い土地ならではの張り詰めた冷たい空気の感じや、社会主義の影響を受けた人々の厳しさやどこか冷めたようなまなざし。だからこそ口にはせず心の中で描き抱く思い出や幸福…音そのものに、作曲家自身の「声」が色濃く映し出されているように思います。

 平和な時代を生き、幸せな人生を送る私がその声に共感し表現するためにはより多くの知識と感性をフルに活用せねばなりません。時々幸せに生きられている事を悲しく思ってしまうほど…。ですから、大勢のお客様の前に華やかなドレスを着て登場するまでは、ひたすら孤独の中で、実際には聞こえない天国の作曲家たちの声を、表現したい事を探す地味な毎日です…。

 沖縄もそろそろ寒くなる頃ですね。どんよりした天気で出かけたくないと思う日が来たらぜひラフマニノフ・エレジーと動画検索して見てください。沁(し)みます。
(下里豪志、ピアニスト)