<南風>科学者と音楽


社会
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 「数や絵、文字のない文化は存在しますが、音楽のない文化はないのです」。英国サセックス大学の教授であるジョン・D・バロウ博士の本の一節です。沖縄でも、音楽は、時を超えて人々の心の支えとなってきたことは想像に難くありません。

 さて、歴史上著名な科学者には、音楽との縁が深い人が多いことはご存知でしょうか? 現代物理学の父とも評されるアインシュタインは「もし物理学者でなければ、音楽家になっていただろう」などという言葉を残しているほど音楽好きでした。また、ドイツのノーベル物理学賞受賞者であるマックス・プランクも、ピアノやチェロなどの楽器を演奏し、歌や作曲などにも才能をあらわしました。

 音楽は長い間、科学者の興味の対象ともなってきました。2003年に、プロの音楽家とそうでない人の脳の構造を比べる実験が行われました。その結果、視覚空間、聴覚、運動制御を支配する領域で体積の違いが発見され、「違いは生まれつきのものではなく、長期的な習得と繰り返しの訓練によるものである可能性が高い」と結論付けられました。他にも、最新のMRIを使用して音楽を演奏しているときに脳や体で何が起こっているのか調べたり、沖縄科学技術大学院大学(OIST)でも谷淳教授率いるチームが、ダンスを教えたロボットが、そのことで創造的能力を身につけるかどうか、などといった研究が行われています。

 OISTでは定期的に音楽会を開催していますが、それはOISTを科学者の創造的な仕事の場であると同時に、芸術家にもインスピレーションを与え、地域の皆さまに芸術と科学の中心としたいと考えているからです。私は、科学も芸術も、私たちの文化の基礎となると信じています。1月25日には、第6回目となる琉球古典芸能の公演も行います。ぜひお越しください。
(ピーター・グルース、沖縄科学技術大学院大学学長)