<南風>コンクール


社会
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 ヨーロッパで3つ受賞致しました。「フンベルト・クアリアータ国際コンクール 第3位」、首都ローマで開催された「セルジョカファロピアニストコンクール 第2位」、フランス・パリ「若き才能のためのコンクール 第2位」、優勝は逃したけれど、自分の体力と精神力の限界を知る良い機会になりました。

 一見、指先の運動だけに見えるピアノ演奏ですが、実はスポーツ選手と同じ位のエネルギーを使います。ホールにある大きなピアノだと中に張られた弦は2メートル程あり、その弦を鍵盤の先に付いたハンマーが打ち、端から端まで綺麗に振動させる事で遠くの客席まで聴こえる音が鳴ります。試しにソファや枕に手を置いて人差し指だけで叩いてみて下さい。恐らく布が動くのは40センチ位。弦の端まで響かせるのに使う力量をイメージ出来るかもしれません。それに加え、膨大な量の音符、バランスやニュアンス等数え切れない事を記憶し、それを一瞬一瞬鍵盤に伝え続けるには相当な集中力と体力を要します。どれだけベストを尽くしても必ず結果を出せるわけではないのが、スポーツの大会と音楽コンクールの違いです。何故なら判定を下すのが人間だから。

 もちろん、演奏する側には表現の自由があるけれど、演奏家は作曲家の思いを後世に伝えるために音を紡ぐ役割。クラシックの美しさを引き出すための基本的な決まり事はあれど、明るい曲でも楽しい生活を音楽にしたのか、辛い日々に幸せを求めて書いたのか、解釈の違いは受験者だけでなく、客席にいる審査員だって違います。ですからどのような結果でも本当の音楽家になるにはその後も自分なりの答えを探して努力し続けねばなりません。

 そういう意味で今回の経験を生かし、さらに深い演奏を目指して日々努力を続けたいと思います。
(下里豪志、ピアニスト)