<南風>若者たちが伝える原発の今


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 私は毎月大学生を案内して、福島の原発を視察している。その中の1人に、東京外国語大学4年生の森本瑠(りゅう)君がいる。森本君はこれまでに、爆発事故を起こした1F(東京電力福島第1原子力発電所)に2回、冷温停止状態の2F(東京電力福島第2原子力発電所)に1回入っている。1月には、1Fの5号機建屋の中にも入った。この日、森本君は、同行した東京電力の担当者に、(1)東電が描く廃炉とは?(2)燃料デブリ取り出しの時期は?(3)汚染水は最終的に海に流すのか?(4)原発を視察する若者達に何を伝えて欲しいのか、などの意見や質問をぶつけていた。

 森本君は原発視察の動機をこう話してくれた。「昨年3月にウクライナのチェルノブイリ博物館を訪問した。博物館には、事故当時の状況や現在の様子などウクライナに関する展示の他に、広島、長崎の原爆、そして東日本大震災、特に福島の原発事故に関する展示が多くあった。私は一人でロシアを横断していたので、思いがけない場所で『仲間』に出会ったような気がした。展示されている写真や新聞記事を眺めているうちに、福島の人達の大きな悲しみや不安そして怒りを想像して、私は異国の博物館で号泣してしまった。すると、警備をしていたおじいさん兵士がやってきて、『日本から来たのか?』と質問し、私が落ちつくまで抱きしめてくれた。それ以来、原発事故、震災に対する興味が大きく広がった」と。

 森本君は原発視察の経験を、SNSや講演会を通して丁寧に発信している。原発廃炉まで40年ともいわれている気の遠くなるような歳月の先にある福島の復興を担うのは若者達。その若者達に、原発の現状を正しく理解し発信してもらうためにも、大学生の原発視察はこれからも続けていく。11月初め森本君からうれしい電話が入った。「就職決まりました!」
(大和田新、フリーアナウンサー)