<南風>経営と幸福学


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 もう15年になるだろうか。「経営理念で飯は食えないですよね」と、ある経営研究会で発言したことがある。参加者から鋭い質問と厳しい指導をいただいた。

「それはあなたが作った経営理念が飯も食えない経営理念だからですよ」

「どんな崇高な理念を掲げても黒字にならないと絵に描いた餅じゃないですか」「黒字にならないのは、経営理念に謳(うた)われていることを本気で実践してないからじゃないの」

「社員は経営者の嘘(うそ)をすぐ見破るよ」。強烈だった。

 お客様第一主義や従業員の物心両面の幸福を目指すと口では言っても、会社の会議の議題は売り上げや利益のことばかり。これでは売上第一主義の会社じゃないかと思った。それから会議の冒頭でお客様からのクレームや喜びの声を聞くことにした。報告する社員の表情が変わってきた。社員の幸せを追求する旅が始まった。

 最近「幸福経営」という言葉をよく聞くようになった。社員の幸福度を高めて企業の持続的成長を目指すという考え方だ(前野隆司/慶應義塾大学大学院教授)。米国の研究では「幸せな社員は不幸せな社員より生産性が1・3倍高い」(リュボミアスキー/米カリフォルニア州立大学教授)。「幸せな社員は不幸せな社員より創造性が3倍高い」との調査結果もある。幸福度を統計的に計れるようになった結果だ。

 金、モノ、社会的地位といった他と比べられる財より、安全、健康、心の状態など他と比較できない財は幸せ度が長続きするという。幸せな社員が多いと個人のパフォーマンスが上がり会社の業績も向上する。

 幸せな社員とは、「夢や目標に向かい、信頼する仲間と共に、自分を磨き、楽しく前向きに、自分らしく、自己実現したくてたまらない人」と言えるだろう。令和の時代も幸せへの旅は続く。
(稲嶺有晃、サン・エージェンシー取締役会長)