<南風>声は人なり


社会
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 地元で放ったスリーラン。昨年5月、沖縄セルラースタジアム那覇で聞いた歓声と地響きが忘れられません。2年連続で本塁打王に輝いた埼玉西武ライオンズ山川穂高選手の活躍に目を見張りました。

 豪快なフルスイングが魅力ですが、実は山川選手は書道も八段の腕前。サイン色紙の美しく洗練された書。球界随一の強打者たり得る精神力は、作品に向き合い続ける書道を通じて培われてきたのかもしれません。

 「書は体を表す」といいますが、OTVのアナウンサーになって今年で10年。改めて噛(か)みしめたいのが「声は人なり」という言葉です。声は日々の発声練習だけで作られるものではなく、何を学んで体験し、感じてきたか。人の声にはこれら全てが宿るそうです。

 ひよっこ時代はとにかく声を出して、ひたすら原稿を読む日々でした。正しいアクセントで、口を大きく開いて懸命に。ところが「何が伝えたいのか」「頭に入ってこない」と上司のご指導を受け続け、ありがたくもまるで禅問答のように感じたこともありました。

 そんな時、「いまのニュースでインタビューを受けていたのは誰?」と問われ、自ら原稿を読んだ直後なのに答えられず。字面を追っているだけで最も大切な内容が二の次だったのに気づきました。

 テーマについて詳しい人であれば要を押さえた声のトーンや間が取れます。感情も込められ、相手が受け取る印象はがらりと変わるはずです。声を磨くことは人を磨くこと。世の中が目まぐるしく動く中、ニュースの核心をとらえ、共感し、伝えるための学びに終わりはありません。

 2020年の干支(えと)は新しい挑戦にふさわしいとされる「庚子(かのえね)」。「南風」執筆という得難い経験を喜び、「人なり」の声の形成につなげていければと思います。
(佐久本浩志、OTVアナウンサー)