<南風>傘立てと写真


社会
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 「お母さん、傘立て買ってきてあげる」。9歳の頃、母方の祖母が亡くなった。毎日椅子に座り、うつ向きながら涙をこらえている母がいた。悲しんでいる母を見て励ましたかった。その時に伝えたのが右記の言葉だ。母の欲しいものを買うと元気が出ると思った。その頃の話を亡くなった母はよくしていた。「恭子のおかげで悲しみが癒やされたよ」と。

 私の家は2世帯住宅。1階に両親が住んでいて、私は2階。母が亡くなってから、1階の父の顔を見て帰宅するようにしている。

 先日、幼稚園から息子を迎えて1階の玄関のドアを開け「ただいま」と言ったらシーンとしていた。静かな家。父は出掛けていた。突然、悲しみが襲ってきた。母はもういないのだ。いつも「おかえり」と笑顔で出迎えてくれた母はいないのだ。急に涙があふれ4歳の息子の前で「わぁ」と大きな声で泣いた。43歳の私が大きな声で泣いた。もう二度と母に会えないことを実感した瞬間だった。頭と心がパニックになった。そんな私を見て息子が急いで何かを持ってきた。「はいこれ」。母の写真だ。涙の止まらない私に何枚も母の写真を持ってきた。「ママ、大丈夫だよ。バーバはいるよ。写真の中にいるでしょ。目のカメラにちゃんと入っているよ」。4歳とは思えない言葉と励まし方で懸命に私に語りかける。泣いている私を見て、今にも泣き出しそうな息子。ふと我にかえった。そうだ。私もお母さんなのだ。私が母を助けたかったように、息子も私を助けたいと思っている。

 母の葬儀で「もうおばあちゃんのことは覚えてないかもね。かわいそうにね」と息子に声を掛ける人もいて悲しみが増した。でも息子はたくさんの愛情を受けたことを今も忘れてはいない。そして忘れさせない。私も息子からもらった愛情、ずっと忘れないよ。
(玉城恭子、HaNaCoLi代表取締役)