<南風>使い込み、横領など(その2)


社会
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 沖縄へ来てからも、知人が少ないということもあって、使い込みや横領などの調査を他の会計士よりも多くやらせてもらった。100件は超えていると思う。

 使い込みや横領をする人は、会計士よりも知恵がある。仕事はきつく、最近は断るようにしているが、能力維持とも思って何年かに一度は引き受けている。

 やっかいなことの一つは、横領者などが証拠を消滅させることである。特に収入源の証拠を消滅させ、復元の途が困難な場合には手の出しようがない。調査を始める前に、机の引き出しやロッカーなど保管場所のチェックをするのだが、ある工場の事例では、ほとんど空っぽだった。近くの空地で何日間も燃やしていたというので、空地へ行った。大きな穴が掘ってあり、焼けこげた書類などがあった。こんな場合でも、経費は案外正確につけてあり、問題は収入の除外である。売上伝票など焼け残った断片をつなげあわせたが残高確認などのしようもない。生産量の全体を電力料などを調べて、稼働状況を計算し、多額の横領を報告したこともある。

 持ち逃げもやっかいである。犯人よりも、現物の行方が最重要であるが、現物、特に現金は生き物のように場所が転々とする。この場合は直後であったが、ごく短期間に、現金は東京のM行から、更にC行へ移っていた。資金の流れから同一性を調べて、持ち逃げを特定しようとするうちに、一部は東京で抜きとられ、大部分はスイスのK行へ、更にS行へ移されていた。間一髪、米国のN市へ移される直前に、企業の上部機関が依頼していた東京とスイスの弁護士らが1年半がかりで元の企業へ戻した。

 楽なものもある。依頼者がこちらのことを宣伝していたのだろうと思うが、相手が「先生には一切隠しません」と言って全部白状してくれたこともあった。
(山内眞樹、公認会計士)