<南風>いまあなたにできること


社会
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 あの日、在沖米国総領事館で取材していた。警備上、携帯電話は預けなければならず外部の情報は入らない。ブリーフィング中、大変なことになっていると慌てた職員が飛び込んできた。部屋の外のテレビに映るのが津波だとは、すぐには理解できなかった。

 東日本大震災の発生から9年となる3月11日、岩手県の新聞・岩手日報は那覇市で特別号外を出した。「伝え続ける」と題した被災地・釜石からの10のメッセージを届けてくれた。

 「家族を信じて みなが『命てんでんこ』で逃げてください 自分の命は自分で守るしかないのです」

 号外の配布には震災直後に沖縄県隊として岩手に入り活動した消防隊員たちの姿もあった。

 被災地の現状について岩手日報の作山充さんは「ハード面の整備は進んでいるが人口流出が止まらない。生業の喪失、被災者の心の復興と大きな課題が残る。沖縄の方々にも大災害に対する備えを常に持っていただきたい」と語った。

 震災後に沖縄県内では次々と自主防災組織が生まれた。ただ各地のリーダーからいま聞かれるのは「避難訓練に人が集まらない」「活動は高齢者ばかり」という嘆きの声だという。

 防災活動に積極的に取り組んでいる糸満市・西崎ニュータウン自治会自主防災会の古我知進副会長は「震災の記憶が遠のき始めているのだろうか」と、震災10年後を担う人材が足りないことに危機感を抱く。

 釜石からの最後のメッセージは「未来のだれかが同じ思いをしないように いま、あなたにできること」「避難を続けること」「備えること」「語り継ぐこと」。

 沖縄に残る巨大津波の記録や痕跡は一つや二つではないという。ひょっとすると、いまは「災害後」ではなく「災害前」なのかもしれない。東日本大震災からの教訓を改めて胸に刻みたい。
(佐久本浩志、OTVアナウンサー)