<南風>患者さまが先生(I)


社会
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 心療内科の勉強です。先生は、完治した30代女性Aさん・気管支喘息(心身症)です。症状は、喘鳴(ぜんめい)(ゼェーゼェー)を伴う呼吸困難です。発作時には適切で迅速な内科的治療が必要です。

 彼女は、小児喘息でしたが、思春期頃には自然に治癒していました。25歳で結婚。2人の子を出産。婚家の家業も切り盛りし育児・家事・仕事に追われ、無理を重ね頑張りすぎる生活を続けていました。その頃に喘息が再発。日中は発作なし。夜間横になると発作が出て病院へ直行し点滴を受けて帰宅ということを繰り返していました。

 ある日、かかりつけ医から、心療内科に受診することを勧められ来院。即入院治療が必要と診断され、私が主治医になりました。

 内科的治療と並行して、「治癒したのに、なぜ、いま、再発したのか?」を含めて、これまでの成育歴が解ってきました。

 彼女は、弟2人の長女。母親はしつけに厳しく、4歳の頃から「お姉ちゃんだからしっかりしなさい、我慢しなさい」と言われて、弟たちの子守・遊び相手、家事の手伝いもしましたが、褒められた記憶はありません。

 5年生の頃、宿題の「お母さん」という作文が書けませんでした。母親からいつもたたかれ叱られた記憶しかなかったからです。人は、子供時代に身につけた感情・考え・行動を大人になっても繰り返します。

 「感情や欲求を自然な形で表現するのが苦手」な彼女は、結婚後も舅(しゅうと)や姑(しゅうとめ)の機嫌を損ねないように、問題をおこさないように、自分の気持ちを殺して「いい嫁、いい妻、いい母」を演じ、振る舞っていたようです。心身症としての「体の病気」の発症と経過には、感情や欲求を無意識に「抑圧」して周りの期待に応えようと過剰に努力するストレスが関与していることを教えてもらいました。
(原信一郎、心療内科医)