<南風>ケニアの携帯電話


社会
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 今年の4月は新型コロナの影響もあり、もやもやした気持ちで始まりましたが、入学や入社といった節目を迎えた皆さんにとっては希望を胸に、人生の新しい扉が開いたところですね。私も昨年の今頃、緊張と期待が交錯(こうさく)しながら、ケニアから沖縄に赴任しました。帰国して1週間もなく、とりあえずスーツケース1個を携えて那覇空港に降り立ったのが昨日のようです。2年目は島めぐりをはじめ、いろいろな所に出かけて、沖縄生活を充実させたいです。

 ケニアから日本へ生活の場が移り、実はケニアの方が便利だったなぁと感じることが度々ありました。その一つが携帯電話に関することです。沖縄へ引っ越す前に東京で機種変更しましたが、手続きに丸半日かかってしまいました。料金も海外と比較すると正直、割高感があります。ケニアでは、SIMカードと電話機本体を買えばすぐに使用でき、プリペイド方式であれば、ガソリンスタンド等で料金チャージ用の識別番号を購入して入力するだけです。通信料金も安く、街中に無料WiFiのアクセスポイントがたくさんありました。

 さらにケニアで携帯電話といえば、開発途上国で起きたイノベーション、あるいはリープフロッグ現象として一躍注目を浴びた「エム・ペサ(M―PESA)」があります。携帯電話(ガラケーも可)の通信回線を使い、任意の相手に送金し、受け取りもできるモバイルマネーです。ショッピングモールでの買物、電気代や水道代、学費や給与の支払いも可能です。野生動物の宝庫マサイマラ国立保護区に住むマサイ族もエム・ペサユーザーです。

 無電化地域が残るケニアで全国的に電子決済が普及したのは需要と技術が噛み合ったから。発展は常に段階的に実現するとは限らないのです。
(佐野景子、JICA沖縄センター長)