<南風>顕微鏡専門家がきた!


社会
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 研究室に入って3年目に転機が訪れた。教授が大型の研究予算を獲得し、研究室のメンバーが一気に増え、顕微鏡の専門家が何人も加わった。とても心強かった。その中にSさんがいた。

 Sさんは有名な企業で顕微鏡一筋を貫き、定年退職された方だった。顕微鏡の専門知識に飢えていた私は、Sさんからできるだけのことを吸収しようとした。Sさんと話すことで、顕微鏡についての断片的な知識が結びつき始めた。顕微鏡の歴史が必然でつながっていることもSさんが教えてくれた。

 我流で顕微鏡を使っていた私に、Sさんは顕微鏡のイロハを丁寧に伝授してくれた。レンズのクリーニング方法から新しい顕微鏡の開発まで、そばにいて勉強することは尽きなかった。

 もちろん、顕微鏡についての講義もやってもらった。研究室の有志が集まり、Sさんの貴重な話に耳を傾けた。私はSさんの講義補助員となり、毎回講義の手伝いをしていた。

 Sさんは家庭の事情で、いつも15時すぎには帰宅していた。そんなSさんからある時、講義の手伝いのお礼に食事でもと誘われた。私は、たまたまSさん担当になっただけで、そこまで気を使っていただかなくてもよいですとやんわり辞退したが、Sさんがどうしてもと言って引いてくれない。それなら、タダ飯よりうまいものはないと思い、一緒に食事に行くことになった

 向かった先は、おしゃれなフレンチレストランだった。カップルや女子に囲まれ、うちら完全に場違いじゃない? と感じながらも、その時を楽しんだ。

 Sさんの思い出話を独り占めでき、本当に贅沢(ぜいたく)な時間だった。そのとき、ふとSさんが思いがけない一言を口にした。

 「島袋さんは、これから顕微鏡でどんな世界を見ていくんでしょうね」
(島袋勝弥、宇部工業高等専門学校准教授)