<南風>多様性とアイデンティティ


社会
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 テレビ番組でも取り上げられている、ブレイディみかこさんの著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読みました。題材は英国ブライトンの中学校に通う息子の日常ですが、格差や差別、社会の分断、相手と自分の間に存在する違いを許せるか許せないか、といった、世界レベルで起きていることとまるで同じであり、私も自分自身の経験を重ね合わせながら読み進めました。

 著者は息子に、多様性は大変で面倒だけど、無知を減らすからいいことだ、と言います。多様性の基礎であるアイデンティティについては、一人一つということではない、とした上で、他者に一つをお仕着せて、自分は優位に立てるものを選ぶ、それが分断を引き起こすのだ、と考えます。

 私が駐在したケニアもさまざまな国籍の人が暮らしています。ケニア人に絞っても、黒人だけでなく、例えばインド系のルーツを持つ人も多いです。言語で区分される民族は40ほどあると言われます。キクユ、ルヒヤ、ルオ、カレンジン、カンバ、キシイ、メルーで人口の8割になりますが、「民族」という一つのアイデンティティをもって、他者を排除することが現実に起きてしまったのが2007年の大統領選挙です。結果を不服とする野党の抗議集会が全国に広がり、最終的にケニア人同士が、キクユ族と非キクユ族で対立する構図となり、1千人以上が死亡、60万人が地元に戻れない国内避難民となりました。いつもは明るいケニア人の心に深い傷が刻まれ、その後2回の選挙は、ケニア国民として悲劇を繰り返してはならない、との強い決意で乗り越えました。

 自分も他者も複数のアイデンティティがあり、違っていてあたりまえ。「地球人」という共通点で結びつくこともできる。そんな関係に包まれた社会にしていきたいと思います。
(佐野景子、JICA沖縄センター長)