<南風>坊さんとロバ


社会
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 3人の息子の父親が死んだ、遺産はロバ17頭、という話を数学の物語で読んだ。長男は2分の1、次男は3分の1、三男は9分の1を受け取るようにと父親の遺言が残してあった。しかし、17頭は、2でも3でも9でも割りきれない。どんなふうにすればよいのかと、3人が困っているところへ、1頭のロバを連れた坊さんが通りかかった。息子たちはどうすればいいのか坊さんに相談した。坊さんは、しばらく考えてから、遺産のロバ17頭に自分のロバ1頭を加えて18頭とし、長男にはその2分の1の9頭、次男には3分の1の6頭、三男には9分の1の2頭の17頭を分け与え、残った1頭を連れ帰って行った。

 この坊さんのような人を、時の氏神という。人が困っているときにタイミングよく現れて、絶妙なアイデアを生む人。世の中には、この坊さんのような貴重な役割のできる人がいて、この人のおかげで、困ったことのすべてがうまくいくこともあるようだ。化学物質に触媒というものがあり、このような役割を果たす。化学反応は原子を組み換え、別の物質に変化させる。

 人や書との出会いが、人生を変えるような場合もある。孔子は易教において、「根本を誤ってはならない。始めは一厘一毛の違いも、後には千里の差となる」と言った。それを読んで司馬遷は、史料と広い見聞により、中国最初の正確な歴史書“史記”を著した。

 この話は数学的に考えれば、坊さんが来る前に、父親の遺言の2と3と9の最小公倍数である18を考えれば済むことだ。長男18分の9、次男18分の6、三男18分の2で17頭のロバの分配はできてしまう。父親は、そう考えて遺言したのかもしれない。坊さんも、ロバも必要なかったことになる。とはいっても、やっぱり、坊さんとロバが登場した方が話はおもしろい。

(山内眞樹、公認会計士)