<南風>えっ! やはり顕微鏡なんですか


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 渡米を機に、私は専門を変えた。分野は同じ生命科学だが、より気楽に顕微鏡を使う研究を選んだ。学生時代にいた分野は、それこそ新しい顕微鏡をバリバリと開発するような猛者の群れだったので、とてもじゃないが目の悪い私が生き残れる気がしなかった。実際、アメリカで始めた研究は、顕微鏡は使うものの単純なものだったので、それほど苦労することはなかった。だが、事態は急変した。

 ミーティングで実験結果について議論しているとき、ふとボスが、「電子顕微鏡でもやるか?」と口にしたのだ。私は、「マジで?」と心の中で連呼していた。というのも、電子顕微鏡は真っ暗闇の中で、超暗いサンプルを見る実験だったので、到底、私にはできそうもなかった。しかし、ボスの命令に嫌とも言えない。途方にくれた私は夜空を眺めて、ため息をついていた。夜空には月だけが見えた。私の目では、もう星を捉えることはできなくなっていた。

 いざ、覚悟を決め、電子顕微鏡の実験を始めたが、次第にこれはいけるかもと感じ始めた。というのも、電子顕微鏡でサンプルを明るく見るには、電子線を強くするしかない。でも、それだとサンプルがぶっ壊れてしまう。幸運なことに、私のサンプルは特殊な方法で作っていたので、電子線を強くしても壊れることなく、明るく見ることができた。

 さらに心強いことに、電子顕微鏡にはCCDカメラが取り付けられていた。これならその場で撮った画像の良しあしを自分で判断できる。一昔前なら、銀塩フィルムで撮影、現像し、数日後にようやく結果が出るという感じだったので、私には不可能だっただろう。私は技術の進歩のおかげで、首の皮一枚つながった状態で、電子顕微鏡の実験を乗り切った。だが、まだ試練は続いた。
(島袋勝弥、宇部工業高等専門学校准教授)