<南風>みゆきさんと心療内科


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 中島みゆきさんは、アルバム、コンサート、夜会、小説の執筆など幅広い活動をしている方で、「迷宮の歌姫」「吟遊詩人」と礼賛されている素敵(すてき)な女性です。私にとっては、心身症やストレス関連疾患で悩み、辛(つら)い思いをし、倒れても何とか立ち上がろうとする患者様にエールを送る音楽療法士です。彼女の“音楽の力”に感嘆し惚(ほ)れています。

 ところで、心身症としての「体の病気」の発症と経過には、感情や欲求を「抑圧」したり、それを適切な言葉で表現できないことが強く関与していましたね。 『風の笛』

 ・つらいことをつらいと言わず 呑(の)み込んで隠して抑え込んで 黙って泣く人へ ・言葉にだせばこじれることもある 言葉にだせない思いの代わりに ささやかに吹け風の笛 (アルバム常夜灯より)

 心身症の患者様たちは、人から愛されたい、人に頼りたい、人から認められたいのです。でも、「つらいと言わず、言葉に出せばこじれるから、言えないことを呑み込んで溺れかけている」のです。

 『倒木の敗者復活戦』

 ・打ちのめされたら 打ちひしがれたら 値打ちはそこ止まりだろうか ・叩(たた)き折られたら 貶(さげす)められたら宇宙はそこ止まりだろうか ・望みの糸は切れても 救いの糸は切れない 泣きなれた者は強かろう 傷から芽を出せ 倒木の復活戦 (アルバム常夜灯より)

 この歌には東日本大震災で被災された方々への共感・共鳴、そして復旧・復興への励ましが込められています。首里城が生き還(かえ)るための励ましにもなるでしょう。

 みゆきさんの歌は、懐が深く、飛び込んでいくと、哀しいまでに泣かされ、そしてお尻をやんわり叩き、背筋をしゃんとさせて、背中をそっと押し、前を向かせてくれます。片思いの“みゆき”ファンです。
(原信一郎、心療内科医)