<南風>意識の向け方


社会
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 昼食時、友人と一軒の食堂に入った。テーブル席について待っていると、家族連れのお客さんが入ってきた。空いている席は座敷席のみ。座敷では座れないと店員さんと話している。とっさに「席替わりましょうか」と声をかけ、座敷に移った。店員さんとそのお客さんたちに「ありがとうございます」とお礼を言われた。

 食事も終わり会計の時、店員さんから「先ほどは席を替わっていただき、ありがとうございました」とお礼を言われた。大したことでもなく、私も友人も忘れかけていたことなのに、昼食時の忙しい中で店員さんは忘れずにいてくれたことに心が温かくなった。

 「小さなことほど丁寧に、当たり前のことほど真剣に」はANAが大切にしている習慣である、と本で読んだことを思い出した。小さなこと、当たり前のことをきちんとやるには、相手を思う想像力が必要なのかもしれない。人は人との関わりの中で生きていくものだから、日々の一つ一つの小さなことをきちんと行動できることは、相手をきちんと思いやっていることなのではないだろうか。食堂での一件を振り返りながらそんなことを考えていた。

 例えば手洗い後、水滴をふき取るのか、そこに飾られた花の向きをちょっと直してあげるのか、次の人のことを思い行動したことはどちらも意味のある大切なことなのだと思う。

 気をつけなければいけないのは、相手が自分の行動に気づくかどうかは重要ではないということ。大切なのは、自分が誰かに思いをやることができるということを知ること、満足すること。そうして、いつも当然のようにやってきた小さなことに少し意識を向けてみる。誰かを思いながら行動することは、自分自身の心の豊かさにつながっていく。結局は自分のためになるのだなと思っている。
(山口茜、沖縄美ら島財団 首里城公園業務課長)