<南風>3分間の親善大使


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 毎日たくさんの患者さんを診ている。

 多民族多文化国家であるオーストラリアにはさまざまな国の人たちが住んでいる。しかも僕は移民者の健康診断も担当しているので、短い診察時間ではあるが、それこそ世界中のさまざまな国の人たちに会っている。外国人同士が異国の診察室で出会う、一期一会とはこのことだ。

 僕が日本人と知るとけっこう話が盛り上がる。日本に行ったことがある人や、行きたい国リストに日本を挙げる人は結構多い。その中には沖縄のことを知っている人たちもいる。

 沖縄と言えば、まずそのユニークな自然。日本本土とはまったく違うトロピカルな植生と海。実際沖縄の海を潜ったという人もいたし、それよりも驚いたのは、座間味島で結婚式を挙げたオーストラリア人カップルが僕の住む街にいたこと。彼らは島の美しさに感激したとしきりに語っていた。

 沖縄のことを世界一の長寿地域として知っている人も多い。とてもうれしいことではあるが、「実は残念ながら」と前置きして、西洋化したライフスタイルがその地位を下げている現実を説明することになる。

 それから、基地の島としての沖縄。アジア最大の軍事飛行場を知っている人もいたし、中には軍人として大戦後に沖縄の地を踏んだという人もいた。

 おかげで今では、僕は3分程度で沖縄の地理・文化・自然、そして複雑な歴史を説明できるようになった。かつて独立国であったこと、戦後の米軍統治、日本への復帰、そして辺野古を含めた現状。言ってみれば、3分間の親善大使だ。

 人は祖国を離れると祖国のことをよく知るようになる。「日本人と言うより沖縄人」として自分を語る時、オーストラリアの片隅の四角い診察室の中で、あの亜熱帯の島の海と風の匂(にお)いを思い出す。
(山内肇、オーストラリア在住家庭医)