<南風>サトシナカモトとの出会い


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 人は一生の終わりに、強烈な体験を走馬灯に見るという。正にビットコインは、私にとってそのものだった。

 「マサならビットコインに興味を持つはず」という友人の言葉に妙な印象を覚えて帰宅後、サトシナカモトが書いたわずか数ページの論文を読んだ。

 身震いが走った。「世界を変える技術だ。ポスト資本主義の核のテクノロジーになる」と確信した。やがて、ビットコインの中核技術ブロックチェーンは、パーソナル・コンピュータ、インターネットに次ぐ第3のIT革命と呼ばれていく。Musavyは解散、帰国し友人の会社でシリコンバレー企業の日本進出支援コンサルで食いつなぎながら、ときを待った。

 鍵はインナーサークルの動き。彼らが特定領域ベンチャーにシリーズAで投資を開始した時、一気にその世界市場が立ち上がる法則性が既にある。日本のVCはインナーサークルのコバンザメでしかない。が、彼らの言いなりではインターネット同様、シリコンバレーに全敗は火を見るより明らか。このわずか数カ月の時間差を使い、日本から世界を狙うのが私の立てた戦略の起点だ。

 いよいよ時が近づきつつあった。2013年夏、インナーサークルによるビットコイン・ベンチャーへの投資が開始。11月、現地友人の小林キヨに「現地のビットコインの盛り上がりはどうか?」と尋ねたら「そこら中で話題だよ。今、日本で仕掛けるのは絶好のタイミングかもしれない」。この一言で始動の決心をした。彼は、私と同じくタイミングを読む能力が抜群に高い起業家だからだ。

 小説『坂の上の雲』の天才参謀・秋山真之が日本海海戦に臨んだ一節が頭によぎった。「本日天気晴朗なれども波高し」。いよいよわが命を賭した未到の航海に出るときがきた。
(仲津正朗、OISTアントレプレナー・イン・レジデンス)