<南風>創業者の思い


社会
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 上司の後押しもあり会社を離れることになった。

 転職の目的は三つあった。一つ目は、私個人のビジネススキルがどの程度備わっているのか、強みや弱みを知るため。これまでが家業のため、常に見えないプレッシャーにさらされ、期待以上の働きができなければ甘えであり、期待以上に働いても当たり前だった。つまり、他者と一緒では済まされず、父と比較される周囲の目と成果を期待され続ける重圧に耐え続けるしかなかった。家業のしがらみがない場所で私自身のパーソナリティーを見つめたかった。

 二つ目は、専門学校日経ビジネスの卒業生の活躍を身近で見たかった。私たちが行っている職業教育は、本当に社会に必要とされているのか。企業の即戦力として活躍できる人材を育ててきたのか。教員の仕事から離れ、同様な環境で肩を並べて働くことで、われわれの教育の真価を見極めたかった。

 そして三つ目は、歴史ある企業の組織風土や文化、社風に触れてみたかった。勤務会社の歴史や理念、そこで働く人の思いを知り、志を共にする仲間と働いてみたかった。

 転職は、ご縁に恵まれ、沖縄の経済・産業界を支えてきた歴史ある会社へ決まった。これまでと異なり、役職もなく、部下もいない。そして重圧もなくなった。

 転職先では創業者の存在が強く記憶に残っている。経営の一線からは退いていたが、毎朝、会社に出社しては、現場の視察を日課にしていた。その姿を見ながら、創業者にとって会社とは自分の子供のような存在で、経営=子育てなのだろうと思った。いつまでも成長を見守り続ける姿に、会社への深い愛情を感じた。きっと、創業者である私の父も最後まで引退することはないだろう。校舎の前で学生を出迎えている父の姿を想像していた。
(島袋菜々子、日経教育グループ HRD labo OKINAWA取締役)