<南風>そして、OISTへ


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 Orbは5・5億円調達、30人の多様性あふれるプロ集団に育てた。全体の50%以上、開発陣は80%以上が外国人、公用語は英語。プロダクトは元アップル、アーキテクトは元LAテックベンチャーのアメリカ人、アルゴリズムはインドIIT卒インド人、アプリはスタンフォード大卒ロシア人という具合。このチームが完成させたOrb DLTはイーサリウムと同類のソフトウェアでオラクル社とのベンチマークテストで世界最速3万件/秒の処理能力を叩(たた)き出した。

 いよいよ世界進出という矢先、大事件が起きる。コインチェック社の巨額ハッキング事件だ。2018年1月末、現代日本にとって最後のチャンスとなる奇跡は、たった4年で終わった。

 その数カ月前よりSBIより買収提案を受けていた。当時、仮想通貨市場がバブルのピークであると直感、かつ先の事件を目の当たりにした私は、日本市場は今後相当厳しくなると判断、提案を受託。同年2月に保有するOrb社株式を全てSBIに売却した。

 世界旅行に出ながら、ポスト資本主義実現に向けた次の動きを練った。小林キヨのようにシリコンバレーへの移住も思案する中、友人で琉球ゴールデンキングス創業者の一人大塚泰造から「沖縄にOISTという面白い大学がある。どうか?」と話をもらう。タイミングよく翌月にOISTが東京でイベントを開催。

 そこでの出会いが私を沖縄へと導く。新竹教授だ。スタンフォード大で主任研究員の彼が、なぜ沖縄に?不思議でならない。懇親会で率直に尋ねた。「ジョブズがアップルを立ち上げた30年前のシリコンバレーはど田舎だった。生活費も安く若者には時間があった。今とはだいぶ違うね。沖縄は30年前のシリコンバレーを見ているようだ」と。私の中で「カチッ」と大きなスイッチが入った音がした。

(仲津正朗、OIST アントレプレナー・イン・レジデンス)