<南風>「排除よりも共生」


社会
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 零細企業家から政治家に転じた「庶民派」大統領の再選阻止に挑んだのは、反体制派を武力弾圧してきたこわもての元軍人。投票前の世論調査でも常にリードしていた現職が、その勢いのまま勝利した。

 だが元軍人は一方的に勝利宣言し、選挙に不正があったと訴えた。首都を中心に支持者らによる暴動が起き、死者も出た。元軍人は選挙結果について裁判所に異議を申し立てたが、証拠不十分で退けられた。

 これは、米国よりも1年半前に行われたインドネシア大統領選の話。なにやら米国とそっくりだ。SNSなどで偽情報やヘイトが飛び交い、大統領を支持するイスラム世俗派と元軍人に肩入れする保守派が対立、社会の分断が広がった点もよく似ている。

 しかし、インドネシアの場合は、その後意外な展開をみせた。大統領は新政府に元軍人を国防相として入閣させたのだ。このままでは国が分裂してしまうとの危機感から、大物政治家たちが仲介に動いたからだ。

 私は当時、多くのインドネシア人と同じくこの措置に強い違和感を覚えた。だが、「多様性の中の統一」を国是とするインドネシアの知恵であり、分断が広がる世界にとって一つのヒントになると今では思う。欧州連合(EU)も歴史をたどれば、2度も大戦を引き起こしたドイツを取り込んで、平和で豊かな共同体を作ろうとの発想から生まれた。どちらも根底にあるのは、「排除よりも共生」という考え方だと思う。

 明日、「分断よりも結束を目指す」と宣言した民主党のバイデン氏が第46代米大統領に就任する。前途は多難だが米国は変わろうとしている。翻ってわが国では異論を排除するトランプ張りの手法が安倍政権から現政権にしっかり引き継がれた。沖縄の分断が加速するのではないか、それがとても気掛かりだ。
(大野圭一郎、元共同通信社那覇支局長)