<南風>民主主義の果実


社会
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 今月1日のミャンマーの軍事クーデターは、暗い軍事政権時代を知る私にとっては大きなショックだった。ようやく育った民主主義の果実が一瞬にして摘み取られたのだ。

 26年前にミャンマー東部に入り、書いたルポ記事を読み返すとこんな書き出しだった。当時の状況がよみがえる。「何とも言えない威圧感を覚えながら、タラップを下りた。飛行場の警備に当たる兵士たちのせいだろう。小さな飛行場なのに、その数は多く、あちこちから刺すような視線を感じる」

 当時、軍事政権は民主化運動を徹底的に弾圧し、民主化の象徴だったアウン・サン・スー・チー氏は自宅軟禁されていた。言論の自由はなく、軍の人権侵害は枚挙にいとまがなかった。

 バンコク特派員だった私は、国際的圧力が強まる中、ミャンマー民主化の動きを定点観測するのが主な仕事だった。スー・チー氏の1回目の自宅軟禁解除には立ち合ったが、大きな進展を感じられないまま離任。民主政権が誕生し、約50年に及んだ軍政が終わったのは2011年だった。だが、その民政も10年で中断してしまった。

 スウェーデンの研究機関の最新報告によると、一昨年、民主主義国家は8カ国減少し、世界は非民主主義国家が過半を超えた。独裁化が急速に進んでいる。今回のクーデターを、中国、タイ、ロシアなどすねに傷持つ独裁国家は黙認している。米国もトランプ政権だったらどうだっただろう。

 心配なのは、こうした国々が増えていくと、ミャンマーのような状況に置かれた国民が頼みとする国際的圧力の効果が弱まることだ。今後の展開は私には予測できないが、国民は連日抗議行動を続け、軍は次第に締め付けを強めつつある。既に犠牲者も出ている。今はただ流血の惨事が起こらないことだけを祈る。
(大野圭一郎、元共同通信社那覇支局長)