<南風>依存症回復の原点


社会
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 弊社は依存症者のためのグループホームを運営している。そこに連続飲酒が止められず、何度も入退院を繰り返し、長期の入院生活を終えたAさんが入所してきた。以前はバリバリ仕事をしていたが、今はアルコールが原因の幻聴・幻覚に苦しんでいる。そんなAさんに30年間酒をやめている断酒の大先輩が尋ねた。

 「酒をやめられるはずがないと思ってるんだろう?」

 Aさんは顔をゆがめて「はい」と小さく言った。大先輩は彼を見据えてメッセージを送った。「絶対に、やめられる。やめたいと願い続けていればね」

 依存症は「両価性(相反する感情が同時に存在する)の病」といわれている。葛藤の病だ。「やめたいけどやめたくない」。心の中はいつも綱引きのように揺れている。しかし最後は決まって飲んでしまう。

 そんな長い闘いの中で「どうせ自分はやめられない、変われない」と絶望していく。「やめたい」と口にすることすらできなくなる。周囲に「今度こそはやめる」と約束しようものならたちまちうそつきになってしまうことがわかっているからだ。その結果「やめる気はない」と開き直ることになる。

 入院しても退院した帰り道に飲む。どんなに強い決意も、家族との固い約束も、神様・仏様・ご先祖様への誓いも、目の前の酒は一瞬でそれをなかったことにしてしまう。

 大先輩は教えてくれた。回復は、なげやり、自暴自棄、諦めを越えて、信じ続ける先に、必ずあることを。

 「変わりたいと願い続けること」「これからの自分に希望をもつこと」。たとえ、失敗によって傷ついたとしても。たとえ、希望が消えたとしても。たとえ、すべてのことがむなしく思われたとしても。それでも、ともにまた始めよう。

(上原拓未、レジリエンスラボ代表 精神保健福祉士)