<南風>絵に描いたモチ


社会
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 琉球新報労組も加盟する新聞労連が1997年2月に採択した倫理綱領「新聞人の良心宣言」を久しぶりに手に取った。記者の倫理にもとる残念な出来事を新聞で知ったからだ。共同通信の記者が、録音が禁止されている、政府主催の会議の録音データを報道の目的以外で社外に提供、さらに会議内容をツイッターで発信し会社から先月、懲戒処分を受けたというのだ。

 私は労連新聞研究部の一員として、良心宣言のたたき台作りに携わった。議論と修正を重ね、全国の仲間が直接、間接に関わりながら作り上げた倫理綱領は、質、量ともに最高水準の行動指針だと自負している。

 当時、松本サリン事件に代表されるメディアの人権侵害、官報接待などマスコミの倫理が問われる出来事が相次ぎ、市民のメディアに対する目は厳しさを増していた。自浄努力をしなければ新聞離れが加速するとの危機感が独自の倫理綱領作りの背景にあった。

 しかし、どんなに立派な倫理綱領も、北村肇労連委員長(当時)の言葉を借りれば「魂を吹き込まなければ絵に描いたモチ」だ。冒頭の記者は良心宣言の「仕事を通じて入手した情報を利用して利益を得ない」に反する。当人は宣言の存在すら知らないだろう。労連の新しいホームページからも宣言全文が消えていた。

 他を批判するのが仕事の記者と同じく、高いモラルが求められる政治家はどんな倫理綱領を持つのか調べてみた。ロッキード事件の反省から国会は1985年、「政治倫理綱領」を採択した。簡潔で崇高な理念を掲げている。だが、次の一項目に目が留まった。

 「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」。政治も最近は倫理綱領違反だらけだ。
(大野圭一郎、元共同通信社那覇支局長)