<南風>正義のクーデター


社会
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 舟をチャーターし、特派員仲間と3人でミャンマーのイラワジ川を川下りした。旅も終わりにさしかかったとき、船頭が操船を誤り、河口に停泊中の客船に激突した。他の2人は川に投げ出されたが、舟の中央にいた私は浸水した舟とともに川底に沈んでいった。

 泥水の中は昼間でも真っ暗闇。死が一瞬頭をよぎった。しばらくすると周囲がかすかに明るくなり、浮き上がっているのを実感した。急に元気が出て自力で浮上、救助の舟に引き上げられた。

 実はその1週間ほど前、仲間の1人が街の占い師に「水難の相がある。バラの花を買いなさい」と警告されていた。彼からその話は聞かされていたが、われわれは一笑に付した。

 陰陽師(おんみょうじ)が活躍した平安時代のように、科学が発達していなかった昔は、占いが政治に利用された。占いが生活に密着しているミャンマーでは、長い軍政時代、政治的に重要な事柄は時に占いで決められ、お抱えの占い師がいたといわれる。

 独裁体制を敷いたネ・ウィン元大統領は、縁起のいい数字は9との占い結果に従い、ある日突然、35、75チャット(貨幣単位)などの紙幣を廃止し、45、90チャットに変えた。2006年に強行されたネピドーへの遷都も占いによって決められたといわれている。2月の軍事クーデターも占いを基に決行された可能性はあると思う。

 軍の誤算は、これほど強い国民の反発にあうとは予想してなかったことだろう。だが、国民が毎日、軍の凶弾に倒れているのに、国連や国際社会は今のところ無力で、有効な手段が見つからない。ならば、国民の殺りくは許せないと義憤に駆られた将校たちが正義のクーデターを起こし、民政に戻すことが起こらないものだろうか。そんな占いがあるのなら、バラの花でも何でも買うのだが。
(大野圭一郎、元共同通信社那覇支局長)