<南風>ロンジーの色


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 2月の軍事クーデターで政権を追われ、訴追されたミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏が最初に自宅軟禁下に置かれたのは1989年から6年間。その間、軍事政権と2回対話を行った。ニュースで映像は流れたが、彼女の発言内容や肉声が伝えられることはなく、占い好きの国民はそのとき彼女が着用した民族衣装ロンジーの色からメッセージを読み取ろうとした。

 1回目はピンクのロンジーだった。ピンクは柔らかさを表現。彼女は軍事政権と対決ではなく、穏やかな話し合いをしていく覚悟だと読んだ。2回目に選んだのは青だった。青は空の色。人の上に広がる空は、指導者を指し、国民を代表して軍事政権と交渉していると受け取った。青は心に陰りがなく安定しているとの意味もあるというのだ。

 対話は2回で終わり、彼女は95年に解放されたが、もし彼女が黒(失望)や白(降伏)を着用したときは、「万事休す」という予想まで出ていた。

 解放から5日後に彼女との単独会見が実現した。私はロンジーの色の話を尋ねようと思っていたが、後に他社の会見が控え、時間も限られていたので本筋の話を聞くのに精いっぱい。すっかりそれを忘れていた。

 先月、クーデター後初めてとなる彼女の近影が公表された。公判に出廷したときに撮影されたものだ。ピンクのマスク姿だが、写真が不鮮明でロンジーの色はよく分からない。非道な軍事政権に抵抗を続ける国民にとって彼女は今なお精神的支柱だ。今月76歳となるが、その強靱(きょうじん)な精神力は今後も衰えないと信じる。

 軍は被告人の彼女を印象づけるなどの目的で、節目に彼女の画像を公表するだろう。そのとき、国民は再びロンジーの色からメッセージを読み取るのだろうか。外国人の私に解釈は無理だが、彼女のロンジーからまた目が離せなくなった。
(大野圭一郎、元共同通信社那覇支局長)