<南風>空想世界へようこそ「未来の沖縄」


社会
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 沖縄本島内の移動は快適だ。本島南部から北部まで縦貫地下鉄が敷設されている。沖縄に米軍基地があった時代、弾道ミサイルの脅威から県民を守る頑強な避難用シェルターとして整備された。駅数は限られているが、出入り口が多く緊急時に逃げ込みやすい。地下街には多くの飲食店が出店し、避難時には食料や飲み物が無償で提供される。

 世界的な脅威となったウイルス禍の後、「戦う相手は国や人間ではない」と、各国指導者の意識改革で世界平和が急速に進み、軍事産業が衰退した。沖縄の基地全面返還が間近に迫った頃、すごいニュースが届いた。本島周辺に希少な海底資源が見つかったのだ。すぐに本格的な開発が始まり、資源利益は沖縄全体を潤した。

 全保育料、全学校の授業料、給食費、本島内や離島間の公共交通機関は全て無料だ。地上にあった幹線道路は大部分が緑地になった。旧国道58号は観光客に人気の路面電車がゆっくりと走っている。アスファルトは芝生に変わり、道路の両側に植えられた木々は延々と木陰を作る。

 アジア最大の嘉手納基地の返還後、一部は世界中をカバーする救急救命医療のために使用される事になった。その施設名は、「万国津梁病院」あらゆる疾病に対応すべく整備された、世界最高レベルの県立医療施設だ。戦闘機の離発着で使われた滑走路は今、世界中の命を救うために使われている。その施設の入口には、こう掲げられている。「世界中の家族の為に」

 第二次世界大戦で多くの犠牲者を出した沖縄だが「平和の礎」に刻まれた人達を越える人々を救い、励まし、助ける島として世界中に認知された。そして国際救命医療の要石としての功績が認められ、ノーベル平和賞が沖縄に贈られた。空想は無限大だ。

(根間辰哉、空想「標本箱」作家)