<南風>出会いは36年前


社会
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 出会いは36年前のテレビ番組であった。この年広島では被爆40周年に当たり、公募した「広島レクイエム」を発表するコンサートが行われたようで、演奏にはレナード・バーンスタインと彼の率いるECユースオーケストラが招かれた。バーンスタインは言わずと知れた世界的な音楽家だが、平和問題にも積極的に発言をしている。

 レクイエムの前の演目に、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」があった。指揮はバーンスタインの弟子の大植英次氏、独奏者は五嶋みどりとなっている。はて、聞いたことない、とその時は思った。

 指揮者とともに、黄緑色のワンピースを着た小さな少女がステージに現れた。13歳だと聞いたが物おじする様子もなく、実に凛(りん)としている。

 やがて演奏が始まると、私の目と耳は画面の少女に夢中になった。私はただの音楽ファンにすぎないが、その演奏はすごいと思った。衝撃的でさえあった。

 4年後、私はサントリーホールに飛び、初めて生の五嶋みどりを聴いた。生の演奏はやはり素晴らしい。すっかり五嶋みどりに魅せられた私は、沖縄に呼べないだろうかとあちらこちら回ったが、どこからもよい返事は得られなかった。みどりの沖縄初公演が実現するのは、1993年6月、県外のある音楽事務所の企画であった。

 2年前、琉球新報が主催したリサイタルは彼女の急病で中止になった。ファンはどんなにがっかりしたことか。しかし、心優しい多くの人たちが「早い回復を祈る」との声を寄せてくれたので、マネージャー氏にその声を届けた。みどりは沖縄を忘れていない。

 今秋、みどりの復活コンサートが予定されている。新型コロナウイルスが気になるが、実現できるように祈りたいと思う。
(新垣安子、音楽鑑賞団体カノン友の会主宰)