<南風>環境を選ぶ時代の到来


社会
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 「アスリートファースト」(選手第一)。近年よく耳にするようになった言葉。現在開催されている東京オリンピック招致の決定を機に広く使われるようになったが、この言葉には「競技環境の整備を選手主体で考える」という意味がある。

 実際に大きく変化があったのが選手を取り巻く契約の在り方。2018年に公正取引委員会は「フリーランスや芸能人、スポーツ選手も独禁法の保護対象となり得る」という見解を発表した。これを受け、各競技団体では過度な移籍制限や慣例的に行われている事実上のルールなども含め、選手に不利益となる規定の見直しが進められてきた。

 プロボクシング界においては「ジム制度」という独自システムがあり、所属選手の育成を担ってきた。そのため時間と費用をかけて育てた選手に対する期待は大きい。これからというときに移籍となると、トラブルとなるケースが多かった。

 そこで、日本プロボクシング協会と日本ボクシングコミッションにより、ジムと選手双方の権利を守るため、本格的に選手契約の見直しがなされた。マネジメント契約3年経過時点でのフリーエージェントが可能となったのは、ボクシング界にとっては画期的な変革だ。ジム間の移籍は珍しくなくなり、多くの選手が主体的に環境を選ぶ時代が到来した。働き方においても終身雇用が衰退し、費やした時間=労働の価値ではなく、生産性が重視される社会へと変化しつつあることを考えると、まさに時代の流れといえる。

 プロボクサーの試合は減量や打撃による身体的ダメージを伴うため、年間2~4試合。原則37歳定年もあるため、限られた時間でより結果を出せる環境に身を置くことは重要だ。だからこそ、指導する側は彼らを勝利に導くために指導力を磨き、常に進化と努力を怠ってはならない。

(平仲絢子、平仲ボクシングスクールジム マネージャー)